カント入門 書評

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石川 文康著『カント入門』
http://www.amazon.co.jp/dp/4480056297
 カントの哲学とは何か。本書の教えるところによれば、一貫した「仮象批判」の態度を貫徹した哲学である。「仮象」とは、客観的視点と主観的視点が入り混じった結果起こる、見かけや先入観のことである。カントはこの仮象と戦い、真理を探った哲学者なのだ。
 真理の最高決定機関であるはずの理性が二枚舌で人間を誤らせる。それがカントの発見した4つのアンチノミーである。その中で特に重要なものが、第三アンチノミーである。

第三アンチノミー
テーゼ:自然法則による因果性だけでなく、自由による因果性もある。
アンチテーゼ:自由は存在せず、すべてが自然法則によって起こる。

 両命題は、互いに排斥しあっているように見える。だが、カントによるとどちらも真なのである。テーゼは英知界における存在者として可能であり、アンチテーゼは自然界における因果として起こっている。つまり、それぞれの妥当範囲が異なるという。これらは小反対対立なので、仮象矛盾である。そして、ここで確立された「自由」は実践理性へと向かう。実践理性とは道徳、倫理に関する理性のことである。カント倫理学はその上に構築されているのである。カントは絶対的な定言命法の道徳法則を唯一の表現に定式化する。
 「汝の意志の格律がつねに同時に普遍的立法の原理となるように行為せよ」
 自分の意志の格律(※行為の主観的原理)がいつも、万人が考えてよいように行動せよ、ということである。そうして、実践理性はカントの仮象批判を通じて、仮象が取り除かれた真の道徳律を掴むことができるようになる。
 本書で印象的だったのは、カントのルソー告白の場面である。いかにカントがルソーから影響を受け、ただの学者から哲学者へと成長したか、わかりやすい説明がなされている。その「回心」の意味は、本書の色々な場所で確認することができる。
 カントの重要な概念、例えば「理性」「アンチノミー」「コペルニクス的転回」「物自体」「ア・プリオリ」「自由」「道徳」「判断力」「宗教」といったものがよくわかるように構成されている。非常にわかりやすい。カントの用語は少しとっつきにくい部分があるが、そこは本書をよく読めば理解できるようになっている。本書は良書である。