「近代のルネサンス概念の発展」(トレルチ)

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19世紀にルネサンスが発見されたのは、19世紀の精神史と直接関係がある、とトレルチは指摘します。つまり《近代的生それ自身は、合理主義、機会主義、そして個人主義的懐疑主義、の手中に帰した》ので、失われた生を取り戻すためにルネサンスが着目されたというわけなのです。
  前の日記でも述べたとおり、ルネサンスという運動は、芸術的貴族主義(既存権力との迎合関係にあるという意味)なのでした。庶民に普及したわけではなく、《この英雄主義は、[中略]決して時代の歴史的特性を示すようなものではない》のです。トレルチが言う《独特の脆弱さ》、つまりルネサンスは不安定さがその特徴です。
  啓蒙主義はルネサンスの精神を受け継ぎつつも、全く違うものとなりました。啓蒙主義は権力迎合的なものではなく、いわば権力から個人の自由を勝ち取るという点で、宗教改革の精神を受け継ぐものでした。こうした話が多分、次の論文で展開されるのだと思います。「啓蒙主義」という論文です。
本文に出てくる《》の中の引用は トレルチ『ルネサンスと宗教改革 (岩波文庫)』(内田芳明訳)からです。